本日は介護現場で起こる事故やトラブル(職員間含む)の再発防止策や指導を見て疑問や不満を感じている方へお伝えしたく綴らせていただきます。
突然ですが、再発防止策や事後処理を見て納得に至らないことは無いでしょうか?
数多くの事例と対応を見てきましたが、そこで筆者自身も多くの疑問を抱きながら「組織の出した結論」であることを理由にして声をあげることはありませんでした。
正確には声をあげたこともありましたが、ほぼ例外なくその声は共感はされましたが反映されることは無く、自分の立場を追いやる結果になりました。
具体的な事例をあげてみましょう
事例1
発生時の状況
服薬介助を実施中に薬を取り違えて他者の薬を服薬させてしまった。その服薬させてしまった利用者への服薬介助を行おうとする時に服薬の間違いに気づいた。
対処
バイタルの確認を実施、間違って服薬した薬の確認、主治医への報告
医師より経過を観察して異常があればすぐに受診をするようにと指示を受けた。
考察
本人より「急いでいたために取り違えてしまった。名前の確認を行う事になっていたが怠ってしまった」
再発防止策
服薬を行う時の名前確認の徹底
この事例1を見て皆さんどう思うでしょう?
確認を徹底させようにも、わかっていた手順を省いた原因となる「急いでいた」理由に触れられていません。それでは徹底といっても個人に注意喚起を行う目的で不手際を公開しているだけとなってしまいます。
この方法が悪いと言っているわけではありません。手順を怠った服薬を実施した職員に要因の一端があるのは間違いありません。ですが、このような事故が月に複数回続いて起こり続けていたとしましょう。
職員の意識に問いかける再発防止策ばかりをあげても改善していないのですから、手順を変えたり容器を変えるような工夫を考えなくてはいけません。それでも事故が起こり続けるのであれば服薬介助をいったん外れてもらうことも必要になってきます。
ですが、もしその「急いでいた」理由が完全な人手不足や、他者の介助量の多さによって職員(個人ではなくチームや施設)側のcapacityを超えてしまっていて事故が必然的に起こっているとしたらどうでしょう?
環境面の考慮から始めなくては根本的な事故の再発防止につながりません。それだけでなく、事故のカンファレンスを形式的に行うという建前の為だけにさらに職員を集めて現場を手薄にしなくてはならなくなります。
もう一つ事例を見てみましょう
事例2
ユニットに利用者が7名おり、うち4名は立ち上がりが頻繁に見られる。2名が落ち着かずに交互に立ち上がりが続いている時に、歩行の介助が必要な人がトイレを希望した。歩行介助中に落ち着かない利用者が立ち上がろうとされたために声をかけていたら
介助中の方の膝折れがあり、転倒に至ってしまった。
対処
状態確認を行う。ぶつけた部位の痛み、腫れ、変色、表皮の状態等を状況に応じて対処。
また、時間をおいてから再度状態の確認を行う。
考察
歩行介助時に他者を気にしてしまったことが要因と考えられる。
状況を考えて車椅子の使用も検討して良かった。
再発防止策
見守りの強化
歩行時の介助方法の再教育を行う
事例2を見て既視感ありませんか?
事例1とは違い、当事者の職員にはその時どうしようもなかったであろう様子がすぐに思い浮かぶと思います。ですが、再発防止策ではその場にいた職員の対応にのみ着目しています。
見守りをどう強化するのかをほぼ検討していないでしょうし、介助方法の再教育に至っては完全にその職員が悪いと言わんばかりの再発防止策です。
事例2の場合は職員を責めてはいけません。当事者の職員は精神的に追い込まれることになり、場合によっては離職につながりかねません。
この場合、一番考えなくてはいけないのは利用者の介助量やリスク、現場の人員を考慮した見守り方法や対応方法です。
合わせて、その現状を作り出した入所管理を行う職員や現場の管理者の責任が大部分を占めていると筆者は考えています。
管理者が職員の技量をある程度把握し、そのうえで部署にどれだけのcapacityがあるか把握すること。
そしてその現状を入所担当である職員としっかり情報共有して受け入れることが出来るかどうかを検討することが必要です。
地域密着型などの小規模施設では現場に入りながら入所管理を行う管理者さんもいらっしゃいますが大規模な施設になってくると入所管理を行う職員が現場に入らない施設が大半だと思います。
入所管理を行う職員だけが悪いという話ではありません。
チームや組織の一部が正常に機能していないことが問題なんです。
事故やトラブルにはほぼ多数の要因が存在しますが、それぞれ事故の要因として占める割合は全く違います。
要因の占める割合の数値化や可視化はほぼ不可能ですが、大事の前の小事を吊し上げて臭いものに蓋をするような解決策は愚策以外の何物でもありません。また、事故やトラブルを考えるときに事故が起こったシーンやトラブルに発展したシーンだけを
切り取って考えると、それもまた解決や再発防止とは遠くなります。
まとめ
・事故やトラブルはその要因の割合を考えずに考察を行っても再発防止策としての効果は薄い
※本当に改善しなくてはいけないのは何なのかを考えてみましょう
・建前だけのための事故カンファレンスは人手を割き、事故のリスクをあげるだけ
※個人を吊し上げたり、形式上行う為だけのカンファレンスならやめてしまうのも手です
・組織の一部が必要な機能をしていないと事故やトラブルにつながる
※自分の役割は何なのか今一度しっかり考えてみてください
これを機会にそれぞれの職場で
「防げる事故を本当に防ぐための再発防止策が提唱されているか」
「現場で防ぎようのない事故の要因や再発防止策を現場に限定して提案されていないか」
を考えてみてください。
補足
本日の記事にすべて該当するような職場の場合、離職率は相当高いはずです。離職がすすみ、職員が職場や業界から離れていくことは貴重な資源の喪失です。
極端な話、福祉制度の崩壊にもつながりかねないことだと筆者は思っています。
逆にこの問題を良い方向に導くことが、人材の確保や質の向上につながると考えます。
ここまで目を通してくださってありがとうございます。