問題解決の第一歩を具体的に学ぶ実践ガイド
介護の現場では、スタッフ間の情報共有不足、利用者の転倒事故、作業の非効率化など、大小さまざまな問題が日常的に発生します。
しかし、その多くは表面的な解決策だけでは再発防止が難しいものばかりです。
こうした課題に取り組む際に役立つのが、フィッシュボーン・ダイアグラム(特性要因図)です。
このツールを適切に使えば、問題の「根本原因」を明確にし、再発防止や業務改善に向けた具体的な行動を導き出せます。
この記事では、介護職員や事業者向けに、この手法を現場でどのように活用するかを深く掘り下げて解説します。
加えて、現場での成功事例と失敗事例を交え、より実践的な内容に仕上げています。
フィッシュボーン・ダイアグラムとは?
フィッシュボーン・ダイアグラムは、問題(特性)とそれを引き起こす要因(原因)を魚の骨に見立てて整理する手法です。
問題を魚の「頭」に、原因を「骨」として分類し、全体を俯瞰しながら分析を進めることで、原因の見落としを防ぐという大きな利点があります。
介護現場での有用性
介護の現場では、事故防止や利用者満足度向上といった具体的な課題が日々生じます。
しかし、それらの原因は複雑で多岐にわたるため、表面的な解決策だけでは限界があります。
フィッシュボーン・ダイアグラムは以下の点で有用です。
・複数の視点を持つ(個人の先入観を排除しやすい)
・チームでの協力を促進(全員で原因を共有するプロセスが組み込まれている)
・根本原因の特定(問題解決に必要な焦点を絞れる)
介護現場における具体的な活用事例
事例1:転倒事故の防止
課題:夜間に利用者の転倒事故が多発している
ダイアグラム作成の流れ
問題の明確化:「夜間の転倒事故」を頭として設定。
主要カテゴリの選定
人:利用者の健康状態や夜勤スタッフのスキル
環境:ベッドや通路の安全性
方法:転倒リスクの把握方法
物:手すりやスリッパの状態
時間:夜間の巡回頻度やタイミング
原因の洗い出し(例)
人的要因
・利用者が足元を正確に確認できていない
・夜勤スタッフの配置人数が少ない
環境要因
・ベッド横に荷物が置かれやすい
・通路の照明が暗い
手順要因
・転倒予防プランの未整備
・巡回タイミングが不規則
物的要因
・滑りやすいスリッパの使用
・老朽化した車椅子
分析結果から解決策を導出
・手すりや床の滑り止め対策を行う。
・利用者ごとに個別の夜間行動パターンを観察し、適切な見守り計画を策定する。
・夜勤者の巡回ルートと頻度を調整する。
事例2:スタッフ間の連携不足
課題:日勤と夜勤の情報共有ミスが頻発している。
ダイアグラム作成の流れ
問題の明確化:「情報共有ミス」を頭に設定。
主要カテゴリの選定
人:スタッフの経験値やコミュニケーション能力
方法:引き継ぎの手順やルール
環境:メモの保管場所やICTツールの活用状況
管理:リーダーの指示の質やタイミング
原因の洗い出し(例)
人的要因
・新人スタッフの引き継ぎ能力が低い
・ベテランがルールを守らない
手順要因
・引き継ぎのフォーマットが複雑すぎる
・夜勤から日勤に向けての連絡手段が統一されていない
環境要因
・メモが紛失しやすい場所に保管されている
・電子記録の閲覧端末が不足
解決策の導出
・簡単で統一感のある引き継ぎフォーマットを作成
・電子記録システムの導入を検討
・チームミーティングで意識改革を促進
フィッシュボーン・ダイアグラム作成の具体的手順
① 問題を明確に定義する
「具体的に何が問題か」を特定します。
課題設定が曖昧だと、原因分析の精度が低下します。
例えば、「事故が多い」ではなく「夜間の転倒事故が多い」と明確に定義することが重要です。
② カテゴリ分けを行う
介護現場で特に有効なカテゴリとして以下が挙げられます。
人的要因:スタッフや利用者に関連する要因
環境要因:施設の物理的な要因
物的要因:備品や器具に関連する要因
管理側の要因:チームのルールやリーダーシップ
③ 原因をブレインストーミングで洗い出す
できるだけ多くのスタッフを巻き込み、現場での意見を収集します。
この際、意見を批判せず、すべてのアイデアを記録することが重要です。
④ 図を作成する
原因をカテゴリごとに整理し、視覚的に表現します。
介護現場ではホワイトボードや大きな紙を使うと共有がスムーズです。
⑤ 根本原因を特定する
「なぜその問題が発生しているのか?」を繰り返し問いかける5Why分析を用いると、表面的な原因ではなく根本的な原因を見つけやすくなります。
フィッシュボーン・ダイアグラム活用時の注意点
先入観を捨てる
特定の原因に偏らないよう、複数の意見を取り入れることが重要です。
データを活用する
感覚的な判断ではなく、記録や統計データを基に議論を進めましょう。
実行可能な解決策を設定する
現実的で無理のない計画を立てることが、継続的な改善につながります。
適応されない場合への対応策
フィッシュボーン・ダイアグラムが適さないケースもあります。
例えば、要因が多すぎて図が複雑になりすぎる場合や、原因が単一で明確な場合です。
その際は、フローチャートやKPT(Keep, Problem, Try)といった別の手法を併用しましょう。
まとめ
フィッシュボーン・ダイアグラムは、介護現場での課題解決において非常に強力なツールです。
現場の声を反映させ、原因を可視化することで、チーム全員が同じ方向を向いて問題に取り組めます。
ただし、効果を最大化するには、課題の設定とチーム全体の協力が不可欠です。
問題解決の一歩として、ぜひこの手法を活用し、利用者にもスタッフにも安心できる環境を構築していきましょう。