人員不足、離職の防止に直結するのは業務の効率化
介護業界におけるECRS法とは?業務改善のための具体的活用術
ECRS法の概要と意義
ECRS法(Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify)は、業務の効率化を図るための手法です。
元々は製造業や物流業界で広く活用されてきましたが、近年では介護業界でも注目を集めています。
介護現場の複雑で多岐にわたる業務においても、無駄を減らし、利用者満足度の向上とスタッフの負担軽減を実現するために大いに役立ちます。
介護現場でECRS法を導入することで、日常業務の中に隠れた「非効率」を見つけ出し、改善するための明確な指針が得られます。
しかし、介護業界特有の課題や利用者の個別性を考慮しなければ、効果が半減する恐れがあります。
この記事では、ECRS法を介護業界に特化した形で解説し、現場での実践方法や注意点を深掘りします。
ECRS法の4つのステップと介護現場での具体例
① 排除(Eliminate)— 不要な業務や作業を取り除く
まず、業務の中で不要な作業を排除します。
排除の対象は「実施しなくても支障がない」「現場の負担を増やしている」作業です。
介護現場の例
重複記録の廃止: 紙記録と電子記録の二重管理を見直し、電子記録に一本化することで記録時間を大幅に短縮します。
過剰な定期会議の削減: 特に情報共有の目的が不明確な会議やミーティングを減らし、必要な内容は共有ツールや掲示板で対応します。
ポイント
削減の影響を事前に検証: 排除する作業が情報共有や安全性に悪影響を及ぼさないか、試験的に実施し結果を確認します。
スタッフの合意形成: 排除する業務が現場で納得されていないと、改善が定着しません。現場スタッフを巻き込み、意見を集めることが大切です。
② 統合(Combine)— 作業や業務を一つにまとめる
類似する作業を統合し、業務の簡素化と効率化を図ります。
統合によって生じた時間を利用者ケアやスタッフの休憩時間に充てることが可能です。
介護現場の例
バイタルチェックと声掛けの統合: 血圧や体温の測定時に、利用者の体調や心理的状態も聞き取ることで別途ヒアリングの時間を削減します。
物品管理の一元化: 各ユニットで個別に行っていた消耗品の在庫管理を、施設全体で一括管理する体制に変更します。
ポイント
過剰な統合は避ける: 統合により、一人のスタッフに多くの業務が集中する状況を避けます。例えば、記録作業と清掃業務を同時に担当させると非効率になる場合があります。
役割分担の明確化: 統合後の業務分担が不明確だと、現場に混乱を招きます。責任者や手順を明確にしておきましょう。
③ 順序変更(Rearrange)— 業務フローを最適化する
業務の順序を見直し、無駄な移動や待機時間を削減します。
介護現場では、利用者や状況に応じて柔軟に対応することが重要です。
介護現場の例
入浴介助の順番変更: 体調や利用者の好みに合わせて入浴スケジュールを組み直すことで、待ち時間を短縮します。また、スタッフの負担軽減にもつながります。
夜勤時の業務再編: 夜間の巡回ルートや記録作業の順番を見直し、移動時間を削減します。
ポイント
利用者の生活リズムを尊重: 順序変更により、利用者がストレスを感じないよう配慮します。たとえば、認知症の方に対しては馴染みのある流れを維持する方が良い場合もあります。
現場スタッフの意見を反映: 実際に作業を行うスタッフの声を取り入れることで、より実効性の高い改善が可能です。
④ 簡素化(Simplify)— 作業を簡単にする
業務の手順や方法そのものを簡素化し、効率と正確性を向上させます。
特に新人スタッフがすぐに慣れられる仕組みを整えることが重要です。
介護現場の例
記録フォーマットの簡略化: 記録内容を重要な項目に絞り、短時間で記入できるよう改善します。
手順書の改善: 複雑なマニュアルを箇条書きや図解で分かりやすく作成します。
ポイント
安全性を最優先に: 簡素化によって情報不足や作業の質低下が発生しないよう、試行段階で検証を行います。
現場でのフィードバック収集: 簡素化後の手順が実際の業務に適しているか、現場スタッフから意見を集めて修正を加えます。
ECRS法を介護現場で実践する手順
課題の可視化
業務のどこに無駄があるかを見つけ出すために、現場の業務フローを観察し、データを収集します。
ステップごとの改善案を策定
排除、統合、順序変更、簡素化の各ステップを適用し、それぞれに具体的な改善策を考えます。
小規模で試行
改善案をすべて一度に導入せず、小規模なユニットや時間帯で試行します。
効果測定と修正
試行後の効果を利用者満足度やスタッフ負担の変化を基に測定し、必要に応じて修正します。
全体展開とフォローアップ
改善策を全施設に展開し、定期的にフォローアップを行うことで持続可能な改善を実現します。
ECRS法を活用する際の注意点
現場の特性を理解する
利用者一人ひとりの状態やニーズに合わせた柔軟な対応が求められるため、画一的な改善案では現場に負担をかける可能性があります。
スタッフの意識改革を促す
現場スタッフが改善の重要性を理解し、自発的に参加する環境を作ることが成功の鍵です。
長期的視点で取り組む
短期的な成果を求めすぎると、逆に現場の混乱を招きかねません。持続可能なペースで改善を進めることが重要です。
まとめ
介護業界でECRS法を活用することは、業務の効率化だけでなく、利用者満足度の向上やスタッフの働きやすい環境作りにもつながります。
ただし、現場特有の課題や利用者の個別性を考慮しながら導入する必要があります。
改善は一度きりではなく、継続的に取り組む姿勢が求められます。
ECRS法を取り入れることで、スタッフと利用者がともに安心して過ごせる介護現場を構築していきましょう。