介護業界の人材は何を求めているのか
という疑問からはじまりました。
皆様の職場でも職員の離職が深刻な問題となっているのではないでしょうか?
少しでも職員の定着や職員の働きやすさにつながればと、考えてみた内容を公開させていただきます。
1 教育制度
新卒採用職員(以下新卒者)、中途採用職員(以下中途者と呼び、新卒者、中途者を合わせて採用職員と呼ぶ)共に必要な制度の一つに職場の教育制度があります。
新しい環境に人材が適応するためには採用職員の努力だけでは限界があります。
採用職員に必要な教育は新卒、中途により異なりますが、それぞれ段階を踏まえて行う必要があります。
まずは教育者が採用職員の知識と技量をある程度把握して教育を行うことが、教育者と採用職員双方の時間的、精神的な負担を大幅に軽減することにつながります。
・新卒の技量の把握方法
新卒者と一括りにお話しましたが、専門学校や福祉過程を経て入職した職員と、全くの未経験で無資格なのか、初任者研修を終了しての入職なのかにもよります。
専門学校等の福祉過程を経由して入職した職員に教育を行うためには専門学校等でどのような教育が行われているのかを知る必要があります。
身体介護の技術であれば、ボディメカニクスを軸に教育を受けているのか、キネステティクスを軸に教育を受けているのか、その他の技術なのか、実際にどのように移乗を行うか教育者もわかりません。利用者様を直接介助してもらうところを見せてもらおうにも不安です。
実際の介助に入る前に教育する人が新卒者の技量を詳しく知ることによって、危険の予測がしやすくなるだけではなく、指導する際に重点的に見る部分を絞ることができます。
実際に技術を見せてもらう前にヒヤリングを行ったとしましょう。
どの程度の知識量を持っていて、何を考えて介助に入るのか。そこを知るだけでも大分違います。また、足りないことを事前に教育することによって、実践に入る前にリスクの軽減を図る事もできます。
お勧めする手順としては
1ヒヤリングの後に必要な知識の確認を本人と行う。
2事前教育が必要な場合は事前教育を行う。
3実際に指導者の介助を見てもらう。
4指導者立ち合いの元実践を行う。
5実践後、危険な動作の指導やアドバイスを行う。
6繰り返し実践を行ってもらう。
7一定期間の実践を経由した後に再度指導者による介助動作の確認を行う。(5へ)
上記の手順を必要なところまで戻って行う事で、指導者も新卒者もある程度の安全性を保ったまま実践を行い、一定水準までのステップアップが見込めます。
一度教えてそのまま「わからなかったら聞きに来て」では気を使う人も、自分は出来ていると思って聞きにいかない人も出て来ますが
手順のフィードバックを行うと、聞く機会の確保ができるとともに自己評価だけの達成ではなく、指導者と新卒者両方の評価の元の達成となります。
求める水準や進行速度、一定期間の設定は職場の人員状況や新卒者の技量の向上具合を見て決めるのも良いと思います。
間隔は1カ月開かない期間の設定をお勧めします。
1カ月以内をお勧めする理由ですが、技術の向上において1カ月試行錯誤しながら介助を行うと、ほぼどこかで疑問が沸きます。
自分で調べてわかることならばそれでも良いのですが、利用者様相手のこの仕事ですので個人の病歴や特徴は職場の先輩じゃなければわからないことも多々あります。
そのために、新卒者が聞きやすい環境を整備することが目的です。
逆に毎日にすると、形式的なものになってしまって機能しないなんてことも起こります。シフトで勤務することが多い仕事ですから、指導者が不在の日もあるでしょう。
ですが、疑問に思ったことをそのまま後日まで持ち越すと聞くのを忘れることも多いと思います。
採用職員は疑問に思ったことは必ず当日中にどこかに記録しておくことが重要です。その機会を増やす試みとして指導者との連絡ノートを作ってみるのも良いと思います。
当然のことですが、指導者の技術や知識は高い水準を要求されます。
・中途者の技量の把握方法
皆様悩んだことが1度や2度ではないのではないでしょうか?
中途者と指導者の年齢、経歴、技量など中途者からの視点ではほぼ必ず、指導者を自分と比較します。経験がある方もいらっしゃると思います。中途者の視点で見ていくと「この職場の指導者として選ばれる人の技量」これを見定めることによって職場の水準も見えてきそうと考えるからでしょうか。
指導についた方も自分より出来る人が入ってきたらどうしよう?なんて悩んだことがありますよね?中途者側も指導者側もそのような先入観を持っている方は決して少なくないと思っています。
今日からはもう気にしなくて結構です。最初にその比較が全く意味が無いことをお互いで確認しましょう。
そもそも、指導という名目で一緒にシフトに入る事もあるとは思いますが、目的はなんでしょう?
中途者がその現場で1人で職員として機能できる。ここがゴールです。
指導者よりも優れている点があったとしたら、そこは指導しなくても良い項目であると考えるようにしましょう。仕事が減るばかりか、あわよくば自分の勉強になる事さえあり得ます。これを恥ずかしいなんて思わないで役得だと思いましょう。
心構えができたところで本題です。
中途者の技量の把握に関しても概ね新卒者と大きく変わる事はありません。
ですが、先に述べたように中途者は業界を経験しています。卑屈になる必要は全くありませんが、中途者として一番気にしていること。それは正当な評価を得られない、認めてもらえない事です。
ここが少し厄介ではあるのですが、この認めてもらう、評価を得るということはどういうことでしょうか?これはあくまでも「自分で思っている自分の技量と、指導者が評価した自分の技量に誤差がある場合」に生じる不満です。
ですので、誤差が生じないようにすればいいわけです。結論からいいますが、中途者と指導者が一緒に評価すれば良いわけです。
職場の取り決めなどに関しては言うまでもなく指導しなくては身につかない内容ですが、介護技術に関しては事前に本人からヒヤリングをして、問題なさそうで実際に指導者が一度実演します。その介助を自己申告でできそうだというのであれば、実際にやって見せてもらう。そして一緒に評価を行うことです。
そうすることで、お互いの評価の誤差はバラバラに評価するよりも必ず誤差が少なくなります。
納得いかなければその場で言ってもらえば良いわけです。
ここまで新卒者と中途者の指導を行う手順と心構えを綴らせていただきました。
次にお話することは、採用職員の到達目標です。人を指導したことがある人はおわかりかと思いますが、他者の評価を行う時になぜか評価が渋くなることありますよね。評価が渋くなるだけではなく、求める水準が高くなることもあります。
すごい速度で技術を吸収する採用職員がいたとして、さらに高い水準を求めたくなるのは指導者としての責任感です。決して悪い事ではありません。ですが、相手の技量にあわせて水準が変動してしまうとそれは時に不満に繋がってしまいます。
ですのでこれは提案ですが、どこの職場でも目安になる水準を提示させていただこうと思います。
採用職員の到達目標
1 危険の無い介助
2 トラブルに繋がらないコミュニケーション技術
3 緊急時対応の把握
4 概ね3か月を目安に新卒者が到達できる水準
あくまでも目安です。指導する側とされる側の技量により変わるものではありますが、現場での必要最低限はこのくらいであると考えます。
改めて一度考えて頂きたいのですが、あなたの技術はどこまでを指導されて覚えた技術で、どこからが自分で掴み取った技術ですか?掴み取ったという表現だと曖昧ですが、先輩や同僚と試行錯誤して覚えた技術や自分で調べて覚えた技術、実際に事故を起してしまって覚えた技術もあるかもしれません。ですが、それはどれも実際に勤務をしながら培ったものであり、3カ月程度で身につくようなものでも、まして一朝一夕で身につくものでもありません。
何年もかけて何百、何千と繰り返し行ってきた介助の果てに獲得した技術を3か月程度の間に身に付けてもらうのは水準が高すぎます。
パットがずれる事もあるでしょう。準備が至らず時間を使う事もあるでしょう。
全てにおいて最初から高い水準を求めずとも、時間を掛けながら覚えて行ってもらえば良いのではないでしょうか?
極端に劣る部分を矯正するために指導を行い、採用職員が今後職場で困らなければ、あとは本人次第で成長していくものでしょう。
このように、職場ごとにブレの少ない一定の水準を設けることで、ある程度安定した指導内容を定着させることが可能になります。
職場のスタンダードが出来上がる事により、職員によって指導で求める水準が違う、指導内容が違うなどの不満を減らすことが出来ます。
各事業所ごとに介助のマニュアルや、指導者用のマニュアルを作る事でさらに安定した指導が行えます。
決して誤解して欲しくないのですが、マニュアルというのはあくまでも目安であって、詳細に関しては臨機応変が必要になります。
介助を行う対象の利用者様が部分的な拘縮や介護拒否、不随意運動が見られる方であったらどうでしょう?
拘縮や骨密度を考慮した移乗方法(2名で介助する。トランスボードを使用する等)が必要になるかもしれません。
特 例的な介助や対応が必要な方がいる職場では「職場の特徴」の一つとして事前に教えておく方がお互い利点があるかもしれません。
(2)職場環境
職場の環境整備も重要なポイントになってきます。
先述したような教育体制も必要な環境の一つとなってきます。ここでは物理的な環境に限定してまとめてます。
1交通アクセス
通勤時の交通アクセスは職場を選ぶ側からすると非常に重要なポイントになります。
利便性の良い公共機関からの距離を考えて送迎車を用意することも事業規模や通勤職員の数を考慮して検討が必要です。
私有車での通勤を希望する職員に対しては駐車場の無料開放も施設運営の一つとして必要と考えます。
2防犯設備の充実
防犯設備と表記しましたが、内容は玄関の施錠設備、ロッカールームで施錠可能なロッカーの設置です。
残念なことに介護施設での事件も起きる時代です。女性の職員が多い介護業界ですから、外部への出入り口は頑丈でセキュリティが充実していたほうが良いですよね。
ロッカーの設置が必須というのは、施設内での窃盗事案が少数ながらあります。
あまり大事にはなっていませんが、少額の窃盗や物の紛失は時々耳にします。
安心して働くためには余計な心配は避けたいところです。そのためロッカーの設置は必須と考えます。
3洗濯設備等の設置
業務中の汚染がある仕事です。感染症拡大防止の為にも、職員の服が汚染した時は職場内で対処したいと考える職員が多いと思います。選択肢の一つとして職場での汚染処理ができると安心ですよね。
3福利厚生
各事業所、事業主にとって最大の悩みどころになる部分です。人件費を多く出してしまうと、後になって給与を下げるわけにもいきませんので、金額の決定は非常に慎重に行わなければなりません。
業界の中で耳にしたお話を聞いている限り、直接の給与以外にも職員が魅力的に感じる取り組みを行っている会社が多数あるようです。業界の知人から情報を集めてみては如何でしょうか?
事業所として上記の取り組みを行う事のメリット、デメリット
・メリット
1 職員からの口コミが職員や利用者を呼ぶ。
インターネットが普及し、情報が広まる速度が速い現代において、内情を知る職員こそ一番の広告塔であると考えます。テレビをのCMや、新聞広告などに募集を載せるよりも広告費としての出費が掛からず、効果は非常に期待できるものです。
集団離職という単語を最近見かけることが増えましたが、集団で離職した職員を集団で確保することも可能となります。応募が多数になれば企業側にも選ぶ余裕が生まれます。数合わせのために不必要な雇用をしなくて済みます。
残念ながら職場で戦力として乏しい職員ほど同じ職場に居座る傾向があります。
そのため、せっかく有能な人材が採用されても他職員の仕事の埋め合わせに追われて負担が集中します。同一の給与で他者の埋め合わせのための仕事までさせてしまうのが長期間に及ぶと離職の原因や職員の人間関係にまで影響を及ぼします。
具体的な取り組みとしては、多少無理をしてでも最低限度の仕事をこなせない職員を教育することです。
そのため教育システムを組み立てることは必須になりますし、それが無いと人材の定着に至りません。
2 職員の定着が見込まれれば、人員確保のための広告費や仲介料、派遣職員の費用を抑えられる。
人員体制を厚くすると人件費がかさみます。ですが、皆様の職場の現状はいかがでしょうか?
職員が離れ、募集をするための広告費がかかり、結果職員が定着しなければすべて無駄におわります。
極端に人が居ない状態が続けば、派遣の職員を入れなくてはいけませんし、仲介を頼めば紹介料はそれなりの額がかかります。
安定した定着率があれば、その分を経営者が職員に還元することも可能になります。
その浮いた経費の一部を職員に賞与などで還元することにより、職員の定着率の安定と良いループが期待できます。
3 職員の入れ替わりが少ない為、継続した職員の養成や事業所としての取り組みが行える。
上記にあげたメリット以外にも、職員が定着することで、職員の大幅なスキルアップが見込めます。同じ職員に継続した教育を行う事によって、繰り返しファーストステップに戻らなくて良くなります。年度をまたいで継続した研修を行う事により職員の技量はより高いステージに上がります。そして、職場を熟知した職員が現場に多数いることにより、現場の特徴を理解して余裕のあるケアに結びつきます。
余裕のあるケアは質の高いケアを支え、顧客満足度の獲得や事故の減少など様々な利点を生み出します。
・デメリット
1 設備投資がかさむ
ハード面を整えようとするとどうしてもまとまった金額になります。
初期投資としての資金が必要になるというデメリットがあります。
2 人件費がかかる
避けて通れない事実です。職員は常に他社と自分の会社を比較します。
実力のある職員、経験の豊富な職員が給与として正当な評価を受けれないと判断すると職員は離れます。
職員の定着を支える大きな一つとして目を背けてはいけない事実の一つで、削ってはいけない部分です。
いかがでしたか?
それぞれ所属されている会社や環境に合わせて、取り入れて頂ける部分があれば取り入れていただけると、職員の定着につながるかもしれません。
誤字、脱字等ありましたら申し訳ありません。
carestep zero